福岡高等裁判所 昭和37年(ネ)448号 判決 1963年6月19日
福岡市信用金庫
理由
控訴人が昭和二六年一二月一五日訴外山宝商事株式会社の代表取締役に、同日被控訴人がその取締役に就任したこと、同会社が被控訴人及び控訴人連帯保証の下に、昭和二七年八月五日訴外福岡市信用金庫との間に、利息を日歩四銭五厘とする継続的金銭消費貸借契約を締結し、その担保として被控訴人が同月六日その所有にかかる福岡市麁原四番丁三八番地の一宅地五九坪八合二勺及び同地上家屋番号八二番コンクリート・ブロツク造り平家建一棟建坪七坪について同信用金庫を抵当権者とする債権極度額金二〇万円の根抵当権設定契約を結びその登記を経たこと、訴外会社は営業不振のため、昭和三一年五月四日解散したことは当事者間に争がない。
控訴人は甲第一号証の成立を認め、同号証は被控訴人が訴外信用金庫に対し、債務弁済の猶予を求めるために見せるだけの形式的なものというので、その言を信じ署名押印したもので、その記載については控訴人の真意を欠くと抗弁するが、同抗弁に照応しあるいは照応するかのような当審控訴本人尋問の結果、当審証人左座ノブエの証言は後記挙示の証拠と対比して採用しがたく、他に右証拠抗弁を肯認しうる証拠がないばかりでなく、原審及び当審被控訴本人尋問の結果と右控訴本人尋問の結果のうち「私が甲第一号証に署名押印するとき被控訴人は私にその内容を説明した。」旨の部分を合せ考えると、控訴人は同号証(ただし訴外信用金庫の作成部分を除く)の文言を知悉し、真意をもつてこれに署名押印したことが認められる。よつて右甲第一号証成立に争のない甲第三号証(土地・建物登記簿謄本)、前示被控訴本人尋問の各結果、昭和二〇年八月五日訴外信用金庫から訴外会社が金二〇万円を借用したことは相違ない旨の当審控訴本人の供述を合わせ考えると、控訴人と被控訴人とは、昭和三二年四月一五日訴外会社が訴外信用金庫に負担する金二〇万円の支払に関し協議をなした上、同月一七日までに内七万円は会社財産をもつて、金五万円は被控訴人の負担において、残り八万円は控訴人の負担において支払うことを約して、各自の負担部分を定め被控訴人は同年四月一七日に自己の負担部分の金五万円を訴外金庫に支払つたが、訴外会社の代表者(社長)である控訴人(と同会社)はその負担部分を支払わないため、訴外金庫は前示根抵当権を実行する旨被控訴人に通告してきたので、被控訴人はこれをさけるため、昭和三二年一二月一六日前示会社の負担部分金七万円(ただしこの七万円は主に会社財産をもつて支払つた)及び控訴人の負担分金八万円並びにこれに対する遅延損害金八、四〇〇円を立替え弁済したことが認められる。この認定に反する前示左座ノブエの証言、当審証人中村武介の証言、前記控訴本人尋問の結果は、前挙示の証拠と対照し信用しがたく、その他に反証はない。
ところで控訴人は昭和三〇年五月頃事実らん(1)のとおりの協議が成立し、訴外会社が福岡市信用金庫に対し負担する金一四万円位の債務は、すべて被控訴人の責任、負担において弁済すべきものであると主張するが、同主張によれば控訴人は四〇万円位、被控訴人は一四万円位(内七万円は被控訴人が個人として費消したもの)の負担というのであるが、控訴人の原審における主張によれば、被控訴人は、訴外会社に対し金四三万余円の債務を負担するというのであるから格別の事情のないかぎり、被控訴人の負担部分はなおさら著大であるべき筈であるのに、控訴人の負担が大であるのに、被控訴人の負担はかえつて小であるという点についての特殊事情に関しなんら主張立証がないので、控訴人主張のような協議が果して成立したか極めて疑わしい上に、かりに右のような協議が成立したとしても同協議は特別の事情のないかぎり、その後に成立した前認定の昭和三二年四月一五日の契約によつて消滅改訂されたものと解するのが相当であるばかりでなく、右主張は前示排斥した各証言、本人尋問の結果を外にして認めるに足る証拠はないので排斥を免れない。
そして控訴人と被控訴人とが訴外信用金庫に対し、連帯保証債務を負担したことは前に認定したとおりであるから被控訴人が控訴人の負担弁済すべき金八万円を訴外信用金庫に弁済したことによる求償金八万円とこれに対する弁済日の翌日である昭和三二年一二月一七日以降完済まで年五分の割合による法定利息の支払を訴求するのは正当であつて、これを認容した原判決は相当で控訴は理由がない。